豊かな暮らしを実現 日本酢ビ・ポバール株式会社 代表インタビュー

日本酢ビ・ポバールの代表取締役社長 小泉 由治 氏 同工場長 松岡 敏文 氏

日本酢ビ・ポバール株式会社様(以下、日本酢ビ・ポバール)は、「豊かな暮らしと未来のために、技術の力で貢献する」のスローガンのもと、環境に優しい水溶性樹脂のボバールをはじめとするユニークな製品群を、安定した品質で提供されています。高品質な製品を安定的に供給するため、プラントの定期修理や設備改修を継続的に行われており、長きにわたって当社で保温断熱工事、各種改修工事と多岐にわたり施工させていただいております。本日は、日本酢ビ・ポバールの代表取締役社長 小泉 由治氏と、同工場長 松岡 敏文氏に、日本酢ビ・ポバールの製品と今後の展望についてインタビューさせていただきました。

― 日本酢ビ・ポバールについて教えていただけますか

日本酢ビ・ポバールは、2002年5月に信越酢酸ビニルとユニチカケミカルが合併して発足し、2005年3月に信越化学100%の子会社となりました。その後、3度の増設を行って事業を拡大してきました。現在も2製造ラインを建設中で、2021年3~4月に完成の予定です。建設中の設備は、主に塩ビ重合用分散剤と医薬品添加剤を目的としたポバール専用製造設備です。完成後のポバール年間生産能力は約7.7万トンとなります。

堺工場は50年の歴史を持つプラントですが、2年に1度の定期修理に加え、設備の更新、改造を絶え間なく実施し、高品質な製品を高い生産性で安定的に供給しています。

2019年11月には社屋を一新いたしました。研究開発と品質保証体制をより一層強化し、付加価値の高い特殊ポバールの生産・販売比率を高めていきたいと考えています。

― ポバールの特徴や用途はどのようなものですか

ポバールは化学品名をポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)といい、合成繊維ビニロンの原料として世界に先駆けて我国で工業生産が開始された水溶性の合成樹脂です。ポバールは今日、そのユニークな性質を活かして、合成繊維ビニロンの原料のみでなく、塩化ビニルの重合安定剤、フィルム及びアセタール樹脂の原料、紙や繊維加工剤、接着剤、無機物のバインダーなどの用途に、国内外において広い範囲で利用されております。

用途を説明していくと、塩化ビニルの重合安定剤として、塩ビモノマーを重合して塩ビ樹脂とする際にも塩ビモノマーの分散安定剤として使用されています。

フィルム用途として分かりやすいのは、洗濯機や食洗機などに入れる洗浄剤(ジェルボール)の周りのフィルムです。接着剤としては切手のり、木工用のボンド、事務のりなどに使用されています。

紙加工用途では紙幣や印刷紙の表面強度の増強剤に、特殊紙であればインクジェット用紙のインク吸収層に使われている例があります。ポバールを使用することで水を吸収しにくくなったり、破れにくくなります。

市販薬や処方薬の錠剤のフィルム添加剤にも使われています。錠剤を割れにくくしたり、においが外に出てこないようにするために、錠剤の一番外側にコートされているコーティング剤に入っています。

大量には使われていませんが、伊勢神宮の茅葺き屋根にも使用されています。かやの防虫性能を高めるために青森県のヒバ油が使われているんですが、ヒバ油はかやに塗ってもすぐに取れてしまうので、乳化剤としてポバールが使用されています。これは、青森県産業支援センターの方の提案です。

用途としては、今はブチラール樹脂がいちばん多いですね。ブチラール樹脂とは、ポバールを主原料とする樹脂で、接着性が強く透明性に優れており、安全ガラスの中間膜に使用されています。安全ガラスの代表的なものに、自動車のフロントガラスがあります。交通事故にあった時、ガラスが飛び散らないのは、ガラスとガラスの間にブチラール樹脂でできたフィルムが入っているためです。ブチラールフィルムも高級なものになると、硬いフィルム・柔らかいフィルム・硬いフィルムの3層になっていて、遮音性を付与されたものや、赤外線吸収剤が入っていて遮熱性を付与されたものなどがあり、高級車に使用されています。

こんな風に、多種多様な用途に使用されていますので素材として非常に面白いと思っています。松岡工場長は、長年ずっと研究してきたプロです。

新しくプラントを作った塩ビ重合用分散剤と医薬品添加剤は、これから力を入れていきたいと思っています。

― 酢酸ビニルの特徴や用途はどのようなものですか

ポリエチレンよりも柔軟性と弾力性を持つEVAという樹脂や木工用ボンドなどに利用されています。EVAとは、クッション・種緩衝材・防護材・目地材・看板用ボード・玩具・床材などに使われています。

―工場を運営する上で大切にしていることはなんですか

安全第一ですね。特に重大事故や人的事故を起こさないことに細心の注意を払っています。今まで、爆発事故・漏洩事故などの重大災害はないですけれど、残念ながら人員災害は起こっていますので、その事故を完全に無くしたいと思っています。

また、無駄を排除して生産活動の効率化を図りたいです。そのためにも、働いている人が無理なく働ける環境を作るのが必要だと考えています。

新型コロナの影響はいかがでしたか

売上に関して言えば、7~8月の上期は非常に悪かったですね。こちらにきて12年経ちますが、今までで最悪でした。リーマンショックのあとと同じくらいのイメージです。コロナの直前もあまり良い状態ではなく、だんだん売上が落ちてきたところでコロナが発生してさらに悪くなりました。工場も一時は生産調整を行っている時期もありました。

この2段底に落ちてから、今は順調に上がってきています。11月以降から順調に売上がのびてきて、今では物がないくらいです。

しかし困ったことに今度は逆に、コンテナ不足でスムーズに輸出が出来ない状態が続いています。港湾の能力が落ちてコンテナが返ってきません。アメリカやインドでコンテナが止まっているんです。アメリカの西海岸では船が入れなくて船待ちをしている状態です。

欧米でコロナワクチンが打たれるようになって、通常な生活が戻らない限り元には戻れないと思います。

― 今後の方針についてお聞かせください

堺に関しては付加価値の高い製品の増産を目指しています。ただ、現在の堺工場には敷地がなく、緑化法の問題で緑を残す必要から使える面積に制限があるので、高層化や第2工場なども視野に入れています。

2年後の定期修理では、環境対応として低VOC(揮発性有機化合物)の製品をより多く製造する態勢を整えたいと考えています。また、老朽化した蒸留設備の更新や焼却炉の新設も行っていかなければならないと思っています。

安全性を確保し、高品質なものを安定的にご提供するために、プラントの点検、更新をしながら、計画的に常に新しい状況にしておくことが大切だと考えています。

―森山工業の対応はいかがでしょうか。

良好です。コミュニケーションも良くとれていて工期の短縮及び品質確保など手際よく対応していただいています。直近ではコロナ禍の状況下での定期修理工事、新プラントの建設工事、罹患者発生時の対応について適切にかつ丁寧に対応いただきました。

具体的には、要望に対して迅速に対応いただいていること、出来る出来ないを明確にご回答頂けること、丁寧な作業をして頂けることが挙げられます。

―森山工業に今後期待することを教えてください。

・これまでと同様に迅速かつ丁寧な作業を期待します。
・新素材・新工法などがあればご提案ください。

小泉社長
1955年生まれ(福井出身)
経済学部卒業後、信越化学の国際事業部に配属
約32年間国際事業部で営業職に従事、12年前に日本酢ビ・ポバールに移動後も営業職として第一線で活躍
2020年2月に社長に就任。世界各地、販売で数多くの海外出張を経験
現在は、東京を中心に堺と東京の2拠点で勤務。趣味は山登りとお酒(日本酒・ワイン)

松岡工場長
1963年生まれ(山口出身)
化学工学を学んだ後、信越化学入社
新潟県の直江津工場にてセルロース樹脂の研究開発に携わる。
平成2年に堺工場に赴任。20年以上研究開発を行い、その後製造部長を経て工場長に就任
趣味はゴルフと読書

日本酢ビ・ポバールの製造される未知の素材が日常生活に溶け込んでおり、知らずしらずのうちに恩恵を受けていることに驚きました。高品質な製品を安定的に供給するために、プラントの継続的なメンテナンスに取り組み、新たな分野への研究に取り組まれる姿勢に敬服いたしました。お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。